日本的雇用が変わる「現実」をみつめなければならない
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定年を迎える団塊の世代にとって大切なのは、「世の中が変わる」と信じることです。
「戦後日本のトライアングル」というものがあります。
その頂点は「官僚主導・業界協調」体制です。
戦後社会(1950年代から90年代までの約50年間)の日本人は、官僚主導・業界協調を至上に正しいものだ、と信じてきました。
今は刑事問題になっている入札談合なども業界協調体制としていいことだ、とされていました。
「コスト+適正利潤=適正価格」こそ正しい、コスト割れで参入してくる過当競争こそ阻止しなければならない。
そうでなければ企業経営の安定も終身雇用も守れない、日本経済と日本人の生活を守るのは官僚主導と業界協調である、こう信じられていたのです。
トライアングルの左端には「日本式経営」がありました。
日本式経営の主柱は「終身雇用」と「年功賃金」と「集団主義」です。
これもまた日本では絶対の正義でした。
定年前に従業員を整理するのは経営者として最悪だ。
経営が赤字になっても、保有資産の売却や経理操作によってつじつまを合わせて雇用だけは維持する。
銀行につながって借金を重ね、関連会社に無理を言い、最後には官僚の世話でどこかに合併させ、それでも従業員だけはクビをきらない、というのが正義だったのです。
日本式経営のもう一つの柱は集団主義です。
ワンマン経営は悪い、何事も組織的にやるべきだ、社長が一人で決めるのはよろしくない、重役会で決めるべきだ。
だから、重役は重役会の前にそれぞれ担当部課長の意見を取りまとめて発言する。
部課長もまた、その前に部課員の意見を聞く。
すべてが「下意上達」、現場重視がよいことだったのです。
そして、トライアングルの右端の点には「職緑社会・核家族」がありました。
家族は夫婦と未成年の子供だけの「核家族」がよい。
ここには血縁社会も地縁社会もありません。
職場の緑でつながる、職業に関係のある人だけが寄り集まる社会です。
親類縁者と一緒にスキーに行くとかゴルフをする人はいない。
隣近所の人と誘い合わせてカラオケをやるのは変わり者だ。
団地の中で友達をつくることもなく、隣の人のことは全然知らない。
知っているのは職場の人ばかり。
高額の消費は必ず職場の近くでする。
埼玉県に住んで東京・丸の内に通っている人であれば、高級な食事は必ず都心のレストランやクラブ、高価な買い物は都心の百貨店というのが典型です。
居住地での買い物は、やむにやまれぬ仕事だから、できるだけ早くて安くて会話のない店がよい。
商品情報はマスコミが流す広告で知り、支払いは銀行振込、商品は配達。
そういう買い物になったのです。
だから、居住地の近くのスーパーマーケットやコンビニエンスストアでは、店員の商品知識はゼロ、どこに商品が置いてあるかを知っている店員がいればいいほうです。
商店が地域の情報交換の場にならない、つまり、地縁社会がまったくなくなったことを意味しています。
好緑社会を目指して そういうトライアングルをもった戦後日本は、規格大量生産に適した社会でした。
ところが、今、これが大きく揺らいでいます。
最初に揺らぎ出したのが「日本式経営」です。
終身雇用でいいのか、リストラをやらなければいけないのではないか、集団主義でいいのか。
それよりもCEO(チーフ・エグゼクティブ・オフィサー)の強い指導力こそ必要ではないのか。
この変化を体験した典型が日産自動車でしょう。
従業員のリストラも下請けの整理もない労使協調路線は破綻、カルロス・ゴーン氏による強烈なリストラが成功しました。
この頃(1999年)から「終身雇用・年功賃金・集団主義」が揺らぎ出したわけです。
もっとも、日本式経営は、平成16(2004)年頃からやや復活し、最近はまた「集団主義、終身雇用がいいのだ」という意見も出ています。
言わば「バブル回帰現象」です。
第二に揺らぎ出したのが官僚主導・業界協調体制です。
これを揺すったのは国際環境です。
GATT(ガット)のウルグアイ・ラウンドからWTO(世界貿易機関)へと発展移行する過程で、不透明な行政指導は否定されました。
また、業界協調は「談合だ」と摘発されています。
しかし、全体としてみれば、業界協調体制が根強く残っています。
その証拠に、談合を摘発しているのはもっぱら検察で、財務官僚がトップを占める公正取引委員会や証券取引等監視委員会はあまり動かない。
経済界では、業界協調体制の正義がまだ信じられているわけです。
官僚主導・業界協調体制と表裏の関係にあるのが官僚の天下りです。
官僚の主導力を活かして業界に先輩を送り込み、それが業界内部の談合世話役になる、という図式はまだ一般的ですが、ようやく非難と怨嗟を浴びるようになりました。
官僚自身はほとんど信じていないようですが、遠からず、天下りの役人の談合指導は難しくなるでしょう。
そして、最後に揺らいでいるのは「職縁社会・核家族」です。
職緑社会の全盛期だった1970年代には、ほとんどの職場で「課の旅行」がありました。
従業員一同が毎朝、社長や支店長の訓示を聞く朝礼もよくありましたし、職場別の厚生福利施設は大流行。
温泉街には企業や公務員共済の厚生福利施設が目についたものです。
個人が大きな家をもつと批判されるが、企業はどんな贅沢なものをつくってもいいとされた。
東京の都心では立派な邸宅がみな企業の厚生福利施設になっていました。
しかし、こうした職緑社会は90年代後半からかなり崩れて、今では謀の旅行も、朝礼も珍しい。
温泉街の保養施設はどんどん売りに出されています。
会社で催される運動会も激減しました。
崩れ出した職縁社会 − これはおそらく団塊の世代が定年になると決定的に破壊されるでしょう。
職縁社会を繋いでいるのは終身雇用と再就職の世話(つまり天下り)なのです。
前職による天下り型再就職が減れば、職緑社会もなくなるでしょう。
戦後日本のトライアングルの中では、とにかく終身雇用の職場に忠実であることが倫理であり、それにしがみついていることが利得であったのですが、団塊の世代の定年でそれが崩れてしまうでしょう。
そこに生まれて来るのは「好緑社会」です。
「好きに生きること」が一番の幸せだ。
職緑社会の「有利に生きること、安全に生きること」よりも、これからは「好きに生きること」が大事になってくるでしょう。
定年後は「自分が正しい」と思える
学生の頃は、教科書や先生が正しいと思わない人は落第しました。
会社に勤めると、会社が正しいと思わないとクビになりました。
ところが、高齢時代は自分が正しいと思えるのです。
つまり、自分の満足を追求できる時期なのです。
だからこそ「好きに生きること」が幸せになるのです。
しかし、問題はあります。
第一に経済の不安があることです。
まず、経済の安心を確保しましょぅ。
そのために考えることは次の5つ。
(1)家計リストラ (2)財産点検 (3)子離れ (4)楽しみ重点予算 (5)宣伝、情報と人脈です。
まず、家計のリストラです。
今、国や地方自治体も、企業も、財政の見直しを迫られています。
家計も見直しをしましょう。
その中で一番のポイントは、職緑社会であるがゆえに支出されてきたものを探して切ることです。
例えば、通信費、交通費、被服費など、先に述べた職場の近所での消費にどれぐらいかかっているのか。
職縁社会であるがゆえに支出されてきたものは、じつはかなり多いのです。
それらを見直して、これからの家計に主張と主題をつくらなければいけません。
第二に、財産を点検することです。
財政再建で国有財産の見直しが言われているのと同じで、意外なところに余計なものが死蔵されています。
その一つは、子供が独立して出て行った後の子供部屋です。
ほとんど不完全使用の状況で残されています。
国有地はよく低利用と言われますが、家庭の中の低利用もかなり大きいのです。
空自になった子供部屋を、自分の楽しみのためにつくり替える。
「楽しみ部屋」をつくりましょう。
おそらく200万円ぐらいの予算で、かなり徹底したものができます。
自分の本当に好きなことを楽しむ部屋をつくれば、趣味のために使うお金をかなり倹約できるし、ときには友人を招いて「見栄」と「収入」を試みることも不可能ではありません。
二つ目に衣服も、新しく買わなければいけない物と、従来のまま活用できる物とを、もう一度、総点検してみると相当減少させられるでしょう。
三つ目に「子離れ」です。
これは最も大事です。
子供にお金をやらないようにしましょう。
就職し、社会人になった息子にお金をやるのは、はなはだもったいないことです。
特に孫の入学祝いとか子供の住宅ローンとか、そういうことにお金をやるのはもってのほかです。
今日の日本では、現役世代から保険料を徴収して、その年の高齢者に年金として配分しています。
自分の払った保険金が将来は年金として戻って来るような錯覚にとらわれている人もいるようですが、それは積立方式といって昭和40年代に終わりました。
今は賦課方式といって、その年に集めた保険料を、その年の高齢者の年金に当てているのです。
従って、社会的には現役世代から高齢者へお金が流れているわけです。
にもかかわらず、家計的に高齢者から現役世代にお金が流れています。
非常に矛盾したことなのですね。
高齢者が年金が足りないからと上げようとすれば、ますます現役世代の保険料が高くなり、生活が苦しくなって、もっと高齢者からお金を取ろうとするでしょう。
回転する金額が大きくなるだけです。
その間に、社会保険庁などに手数料を取られてしまう。
これが実際にずいぶん高いのです。
127兆円の保険料を集めるのに2兆円かかっているというから、小さな金額ではありません。
従って、若い世代にお金をやらないことが大事です。
すでに子供たちは完全に親離れしています。
それにもかかわらず親は子離れしていないのです。
早く子離れして、自分のための幸せを追求するようにしましょう。
四つ目に「楽しみ重点予算」の作成です。
これまでは職縁重点の予算になっていたと思いますが、これからは楽しみ重点の予算を組みましょう。
予算を見返すとき、現にある支出を「一率一割カット」という財務官僚のやり方は、最も下手な方法です。
まず、これまでの支出をゼロにして(ゼロ・ベース)、好みの分野に重点配分するのが大事です。
そして五つ目に、忘れてならないのは、自分の楽しみを宣伝し、自分の楽しみの人脈をつくるということです。
職縁社会は職場の縁で結ばれているのであって、趣味や好みを基準にして人選された好縁社会ではありません。
同じ職場の30人なら30人の中で探すわけですから、自分と同じ趣味、好みをもっている人は見当たらないのも当然です。
しかし、インターネットなどを利用して機会あるごとに自分の趣味を宣伝することによって、同好の士とそれに関する情報を募りましょう。
そうすると必ず「好み」の人脈の中心に入ることができます。
これは人生の楽しみにもなるし、再就職にも役に立つでしょう。
ただ、問題は「好き」をどうやって発見するか。
これはたいへん難しいことなのです。
これはまた、べつの機会にでも話してみたいと思います。
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